5) 白瓷(しらし)の文様と文字。
平安中期から後期にかけて、東海地方の各地で各種の白瓷が焼かれています。
その中に、箆(へら)描きの技法による陰刻文や、貼付文による装飾を施された各種の器が
存在します。
? 主な文様。
宝相華文、飛雲文、飛禽類、蝶文、秋草文などがあります。初期の物ほど写実的で丁寧に
描かれていますが、大量に生産される様になると、次第に簡略化して行きます。
これらは、中国の唐代末期から五代十国時代(907 〜 960年)の越州窯の文様を、模倣した
ものではないかと考えられています。
? 器の底に文字を描く。
?) 注文主を陰刻した物と思われる文字で、椀、鉢、盤などがあります。工政所など役所の
部署名が描かれています。他の役所の様な文字もあるのですが、何と読むのかも判り
ませんし、漢字変換も出来ませんので省略します。
?) 吉祥文字や寺院、山や川などの場所を示した文字も見受けられます。
冨、万、千、上、南客、寺、大、本、長などの文字が記されています。
これらは共用窯に於ける、窯印で有った可能性も有ります。
6) 代表的な白瓷の作品。以下はいずれも国の「重要文化財」に指定されています。
? 白瓷 多嘴瓶(しらし たしへい)又は壷: 9世紀 愛知県三好町出土、 本田コレクション蔵。
高さ 21.5cm、 口径 6.5cm、 胴径 16.0cm、 底径 9.2cm。
?) 長頸瓶を基本形にし、その肩に四個の注口を持つ珍しい形の物です。
古墳時代の子持須恵器の流れに連なる形と思われます。
?) 猿投窯初期の灰釉陶器の代表的な焼き物です。用途は仏具の一種と見なされています。
?) 丁寧な轆轤挽きで、シャープな形をしています。
素地は須恵器質ですが、肩から胴にかけて緑色(還元焼成)の灰釉が掛けられています。
? 白瓷 壷(しらし つぼ): 9世紀前半 出所不詳(猿投産?) 松永記念館蔵。
高さ 25.6cm、 口径 12.2cm、 胴径 30.7cm、 底径 17.2cm。
?) 球形の胴に、裾が広がった高台、小さな口頸部など見事な轆轤挽きの作品である事が
判ります。 灰釉壷の最高傑作と言われています。
?) 耐火度の高い鉄分を含む素地で、焼上がりは、極めて良好です。
高温の為、高台の一部に焼歪(やきひずみ)があります。
?) 口頸部から肩全体に灰釉が掛けられ、胴の下部に釉が瀧の様に流れ落ち、力強さが
感じられる作品です。
? 白瓷 四足壷(しらし しそくこ): 11世紀 伝京都市相国寺伝世 茶人織田有楽からの寄贈
高さ 16.2cm、 口径 11.0cm、 胴径 22.6cm、 底径 15.7cm。
?) 短頸壷で胴に三本の帯紐が巻かれ、口縁より底部に向かう四本の脚紐をその上に貼り
付けた形状です。保存状態もよく完全な姿を保っています。
?) 灰釉は全体にタップリ厚く掛けられ、光沢のある黄褐色(酸化焼成の為)をしています。
本来の用途は不明ですが、箱書きには「高麗ほかい御水指」と記されています。
7) 白瓷の量産化と地方への拡散。
以下次回に続きます。