1) 灰釉(かいゆう)陶器とは。
植物の灰を原料とした釉(薬)を素地に掛けて焼成した焼き物です。
現在でも多くの陶芸産地や陶芸家達、特に民藝陶器は、灰を原料にした釉を使っていますので、
広い意味では、現在の釉も灰釉陶器と言えますが、ここでは狭い意味で、平安時代の9〜11世紀
の焼き物を指す事にします。
? 中国の西周時代(紀元前1046年頃から紀元前771年)の墳墓遺跡からは、副葬品として
灰釉の掛かった焼き物が出土していますので、その歴史はかなり古い様です。
これらは、自然釉ではなく、意識的に灰釉を掛けた物と思われています。
? 自然釉からの発想の灰釉。
我が国では、窯の改良により1200℃以上の高温で焼成される様になると、燃料である薪の
灰が降り掛かり、薄緑色や黄色、褐色等のガラス質と成って表面を覆う、灰被り(はいかぶり)
の状態に成ります。 この事から、灰が高温でガラス質になる事が判明します。
そこで、植物を焼いた灰を水に溶かし、意図的に素地に塗る事で、作品をガラス質で覆う事が
考え付いたと言われています。
? 灰が熔けるとガラス質になる理由。
草木灰の中に含まれる石灰(CaO:20〜50%)や、カリウム、マグネシウム、ナトリウム等の
アルカリ成分が、高温になり熔ける事で、素地に含まれるアルミナ成分や珪酸と反応し熔けて
ガラス質になると言われています。
その焼き物は当時、瓷器(ジキ)や白瓷(シラキ)と呼ばれていました。
? ガラス質の効能。
表面をガラス質で覆う事により、水や油分の吸収を抑え、汚れ等から器体を保護したり、装飾の
役目も果たす事になります。
2) 我が国での最初の灰釉陶器が作られてた場所。
現在知られている最初の灰釉陶器は、平城宮跡で天平宝字(757〜764年)の木簡を伴い
出土した、愛知県猿投(さなげ)窯産の長頸瓶(ちょうけいへい)と言われています。
? 愛知県猿投で焼成された理由。
畿内では、須恵器や奈良三彩、緑釉陶器が作られ、陶器の一大生産地であるにも関わらず
畿内より遠い愛知県で作られたのは、耐火度の高い陶土が大量に存在していたからです。
・ 草木灰の熔融点は1200℃以上必要で、須恵器や三彩、緑釉陶器に対し100〜200℃
程度高くなります。
? 猿投窯の地層。
窯の西側の東山地区では、赤褐色の鉄分を多く含む陶土が産出しますが、東方の猿投山に
近い場所では、カオリン系の鉱物を含む比較的良好の、耐火度の高い白色粘土を産出して
います。尚、猿投山は花崗岩から出来ています。
それ故、時代を経るに従い、古窯跡群は東方の猿投山西南麓の低丘陵地帯に広がって
行きます。
? 灰釉陶器の古窯群について。
以下次回に続きます。