inag様より、以下の質問を、お受けましたので、この場に掲載し、私なりにお答えします。
最近ようやく小さい電気窯(内側Φ240×200)を購入しましたが、本焼きで形がどう変化(垂れる)
するのか、粘土の特性を勉強したいので、とりあえず多く焼きたいです。
そこでご質問ですが、無釉で素焼き無しの本焼きをする場合は、重ねて焼くことは可能でしょうか?
土は黒泥土・サイズは湯呑かコーヒーカップサイズです。(ネットで調べる限り、素焼き無し・無釉で
重ねて焼けることは備前等でも普通にやっているようですが・・・)
1200度を超えると、さすがに重ねた箇所が変形するようにも思えてしまいます。
◎ 明窓窯より
1) 基本的には、無釉の作品を重ねて焼く事は可能ですが、幾つか心得ておく注意点があります。
尚、無釉の場合、素焼きをしないのが普通ですし、結果的に素焼きの有無は、ほとんど問題に
成りません。但し、狭い窯に重ねて入れる作業で破損させない為には、素焼きした方が安全
です。
2) 本焼きで重ね焼きする場合、特別の場合を除き、作品の縁で上の作品を支える事は避ける
べきです。ご指摘の様に、高い温度になると、土は軟らかくなり、上からの力で縁が変形する
恐れがあるからです。尚、特別な場合として、垂直に近い形の作品の縁上に、同口径の作品を
逆さに載せたり、逆に、作品の底(又は高台)同士を重ねて焼く方法があります。但し、上に乗る
作品は軽い方を載せる事です。
3) 皿類であれば、高台を高めにして、縁が接触しない様に重ねるか、「ヨリ土(又は道具土)」
で数個の「ツメ」を立て、高台を浮かせます。縁同士の距離は5〜10mm程度必要です。
この方法であれば、施釉した状態でも本焼できます。(昔はこの方法で焼成しています。但し
目跡(めあと)が残ります。)
4) コーヒーカップの内側に、径が小さい湯呑茶碗を重ねる事は可能です。その際水平に置く
様にしで、相手に寄り掛らな様にします。この場合は、直に重ねても問題有りません。
5) コーヒーカップの様な取っ手のある作品同士は、重ね焼きはしない方が良いでしょう。
取っ手があると、上の作品は斜めに重ねる事になり、結果的に縁で支える事になるからです。
6) 燃料を使う窯では、対流による熱が移動して、隙間にも入り込み、一様に熱せられます。
電気窯の熱は、放射(輻射)熱と言われ、熱源より直線的に伝わるのが特徴です。
重ね焼した場合、陰の部分が発生してしまいますので、重ね具合によって、焼斑(むら)が
起こる恐れがあります。即ち、場所場所によって温度差が生ずる可能性が大きいです。
以上がご質問にたいする答えですが、蛇足ながら、気になる点についてお話します。
質問者は電気窯により1200℃以上で、焼き締めの食器を作ろうとしています。
更に備前焼についても述べていますので、無釉の問題点を述べておきます。
1) 土を黒泥土との事で、この土についての詳しい事が不明ですが、1200℃以上で確実に焼き
締まる土である事です。1200℃の温度は陶器の焼成温度としては、決して高い温度では
なく、むしろ低い方に属します。それ故、十分焼き締まらない場合には、以下の問題が
発生します。
? 水漏れを起こす。
湯呑やカップ類など、水分を含むものを入れると、水漏れを起こします。
「ボタボタ」と漏らなくても、底面が濡れる事があります。(テーブルが円形に濡れる)
又、焼が甘いと、機械的な強度も弱くなります。(即ち、破損し易い)
? 器が汚れる。
吸水性を完全に抑えないと、器内の汁がじわじわ入り込み、食品の滓(カス)が、こびり付く
様になります。更には、乾燥不十分により、黴(カビ)が発生する恐れがあります。
洗剤を使う場合にも、十分水洗いをしないと、洗剤が残るかも知れません。
但し、上記?、?の問題も、食器用の撥水剤を利用すれば、ある程度解決できます。
? 口当、手触りが悪い。
唇が縁に触れますが、ガラス質でない為、「ザラツイタ」感じがします。
? 備前焼の土は、収縮率が20%もあると言われています。更に、1250℃程度の高温で、
数十〜数百時間焼成しますので、しっかり焼き締める事が出来、水漏れを起こしません。
又、重ね焼の場合、クッション材として、藁(わら)を使う場合も有りますが、電気窯では電熱線を
痛めますので、使う事が出来ません。
尚、不明な点や、新たな疑問が発生した場合には、再度お問い合わせ下さい。
以上、参考にして頂ければ幸いです。